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2024/11/23 23:47 |
つづきのつづきのつづき
 帰り道、少女に名を訪ねてみたが、少女はわからないと答えた。
なぜかと聞けば、長い間呼ばれなかったので忘れてしまったという。自分の名前を忘れるなど奇妙だと思いもしたが、それが真かどうかなど確かめるすべもないので、勘助は呼び方を改める事はしなかった。少女はただ一つの持ち物である数珠を大事に握って背負われていた。




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2012/03/26 14:25 | Comments(0) | 書きなぐった
さらにつづき
首元でがらんがらんと鈴が鳴る。
熊よけ用の大きな鈴だ。
熊に人間の存在を伝えて出会わないようにするための鈴は、今では何の意味も持たない。
後ろからどすどすと重量感のある足音が聞こえる。
重さの割には軽やかな足音で、迫りくるものは想像以上に速い事が伺える。
道は平坦である。このままでは追いつかれる、腕を振る、地を蹴る足に一層力をこめる。
息が苦しくなるだけで音との距離は離れない。
もう少し、もう少しすれば下り坂。
追手である熊は前足が短く下り坂では速さが落ちる。
そこに賭けている。早く速くと思うのに力をこめても距離は離れず、音が迫ってくる。
わき腹が痛む。全力疾走などいつぶりだろう。
息を吸うのも吐くのも、何度も何度もしているのに楽にはならず苦しくなるばかりだ。
このままでは、このままでは…考えたくない結末が頭を掠める。
少女は助かっただろうか。できることならこの目で確認したい。
その時、不規則に揺れる視界の先に平坦だった道が途切れる場所が現れた。見えた、下り坂だ。

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2012/03/08 05:57 | Comments(0) | 書きなぐった
つづき
勘助が麓に居を構えた山を超えた先に村が一つある。
勘助がいた村を山越《やまごえ》村といい、山の向こうの村は山迎《さんげい》村という。
商人や旅人が通る際におおよそ山越村から山へ入り山迎村へと出ることからついたとされている。
もちろん逆もあるのだが、都の方角が山迎村の方であるためこのようになったのである。
さて、山越村側の麓に居を構えた勘助だが、悠々と独り身の暮らしを満喫していた。
とうに親も居なくなった勘助である、嫁の立場を奪うほどの家事能力も誰に何を言われるでもない。
麓のそばで畑を耕して種籾は村に住んでいた頃の知り合いに口利きで少しわけてもらい、自給自足で生活するための土台づくりに没頭していた。
作物ができるまでの食料には困らなかった。
村人とは絶縁したわけでは無いので人の好い勘助の人気はそのままである、村に顔を出す度、大変だろうあれもこれも持って行けと両手いっぱい貰うのである。

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2012/03/08 05:52 | Comments(0) | 書きなぐった
未定
勘助は不思議な男であった。
男でありながら炊事洗濯針仕事をこなしなおかつ自営業とはいえ自分の足で外を歩き回っては金策をしてくる。人当たりの良い性格の優男で、話をしていて気持ちが好いとご近所から取引先まで口を揃えて言うのである。

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2012/02/16 19:16 | Comments(0) | 書きなぐった
冷たい手


「先輩って手冷たいですよね」
何もすることがなくてベランダでぼんやりしていたところに声が掛かった。
声の主はよく知った後輩で、よくうちに遊びに来る。よく遊びに来るから会話がなくても気にならなくなった。たまにとりとめのない会話をするくらいだ。
「ん?あー、そうだねえ。なんか冷え性みたいでさ、毎年冬になるとずーっと冷たいんだよ」
「そのわりには、手袋とかしないですよね」
「手袋とかは苦手なんだ。というかね、芯まで冷たくなっちゃうからしてもあんまり意味がないんだよ」
「芯まで冷えちゃうと全然温まらないんですか?」
「お風呂とか、熱めのお湯につければ温まるかな。お風呂の後はすぐに寝ないとすぐに冷えちゃうけど」
いつもは言わないお風呂なんていう言い回しをつい使ってしまってむず痒く、意味もなく笑いがこぼれた。
「暖かいもの飲んだりしてもだめですか? ちょうどココアがありますよ」
勝手知ったる他人の我が家という風情。
後輩はインスタントのココアやコーヒーを置いてある棚を指差した。
「芯まで暖めるのは難しいかなあ。でも、触れている指先は温かいし、体は温まるからだめなんかじゃないよ」
「じゃあ、入れてきます。ちょっと待っててくださいね」
後輩は小走りにキッチンへ向かっていった。そんなに急いでいかなくてもいいのに。
なべにココアと砂糖を少しの水で練って、後は中火で牛乳を加えながらあたためる。というのがいつもの後輩の入れ方。
ネットで知ったおいしい入れ方らしい。確かにおいしいから忙しくないときは自分も同じ入れ方をしている。
「熱っ」
鼻歌交じりに牛乳を加えて混ぜていたところに小さな悲鳴が聞こえた。
ココアを作っているだけなのに何があったのかと心配になってキッチンに向かう。
キッチンでは後輩が手を押さえていた。
「どうしたの?」
「・・・ちょっと火傷しただけですから、大丈夫です」
「あちゃー。赤くなってるねえ」
見せてもらうと、赤くなって少しはれていた。すぐに冷やしたほうがいいと思った時、自分の手が冷たいことを思い出し、火傷に当ててみた。
「先輩の手、冷たいですね・・・水いりませんね」
後輩はそういって恥ずかしそうに笑った。
「冷たい手もたまには役に立つもんだねえ」
照れ隠しにそういってみたものの、顔から火が出そうなほど熱かった。

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2009/03/05 06:36 | Comments(2) | TrackBack() | 書きなぐった

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