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2024/11/24 02:06 |
つづきのつづきのつづき
 帰り道、少女に名を訪ねてみたが、少女はわからないと答えた。
なぜかと聞けば、長い間呼ばれなかったので忘れてしまったという。自分の名前を忘れるなど奇妙だと思いもしたが、それが真かどうかなど確かめるすべもないので、勘助は呼び方を改める事はしなかった。少女はただ一つの持ち物である数珠を大事に握って背負われていた。




帰りついてまず最初に少女に湯を浴びさせた。
さすがに女子の着物は持っていないので、自分の着物で悪いがと湯を浴びさせる前に裾の高さだけ合わせたものをわたした。
火の番がおらぬゆえ泊めた旅人しか使わぬ風呂で少女が湯を浴びる間、勘助は火の番をしながらこれのことを考えた。
まず少女の身の回りの物を揃えてやらねばと思った。
体格の合ってない男の着物などずっと着させる訳にもいかぬし、何より履物も持っていないようだ。これからここに住むとしてもどこかへ行くとしても必要なものは揃えてやらねば。
少女が湯から上がったのを確認して、勘助は次に夕餉の支度を始めた。
久々に誰かのためにつくる料理には腕がなる。
先ほど全力疾走した疲れも飛ぶような気持 ちだった。
少女はじっと座って待っている。
勘助はもう何日もまともに食べておらず胃が弱っているだろうと胃に優しい粥を拵え、そこに漬物をそえてやった。 少女は始めにゆっくりと口を付けたあと夢中で箸を動かした。
勘助は自分用の夕餉を食べながら、自分の拵えた夕餉を腹に黙々とおさめる様をみて頬を緩ませ た。
夕餉のあと、少女が火の番をするので湯を浴びろと言うのを
「わしはいつも銭湯やき」
と勘助は断り、片付けは明日でいいかと早々に寝る支度をした。
寝床の問題はとりあえず囲炉裏を真ん中に挟んで布団をひくことにした。
  翌朝、勘助はすぐに戻ると早々に出掛けていった。
勘助が出てから半刻ほど後、来客が訪れる。
最初に一言断りがついた後は、戸を定期的に叩く音が続いてい る。
なにかあってはいけないと勘助からは出ぬようにと言われてはいた少女は、息を潜めて戸を叩く音がおさまるのを待った。
しばらくして、来客は静かに離れ ていった様だった。
少女は胸をなでおろした。来客から程なくして勘助は女性を連れて戻ってきた。
女物の着物はわからぬので無理を言って付いてきても らったと勘助は笑った。
女性は早速手にもった着物を合わせようと勘助を部屋から追い出した。
一部屋しかない小屋から出された勘助はそのまま戸に背中をあず け、思考を巡らせた。
連れてきた女性は可愛いもの好きで、特に若い娘の世話を焼くのが好きなのである。
小屋の中で嬉々として少女に着物を合わせる姿を想像 した勘助は何やらじわりと胸が暖かくなるのを感じ、頬を緩ませ空を見上げた。
少女の身の回りの物もうは心配いらぬだろうと一先ず安堵した勘助は今度は視線 を足元に戻し、小屋の中から聞こえてくる嬉々とした声に吹き出しそうになるのを堪えにやけ顔でふふと息を零した。
そうして何気なく地面を眺めていた勘助の耳にしゃ んしゃんと音が聞こえてきた、近づくにつれ音は大きくなり、視界に影が現れる。
音が近づくにつれ大小の円が重なっているような形が見え、勘助は人であると 認識すると同時に顔をあげた。
そこには三度笠に錫杖、黒い衣に身を包んだ僧が立っていた。
「失礼、こちらの主人で間違いないだろうか」
僧は笠に手を添えて顔あげ尋ねた。見えた顔には朗々とした声の印象とは裏腹に深いしわが見えた。
「たしかにわしん家じゃが、何か用ながのう」
勘助は極力平静を装い答えた。只の僧にしては物々しい雰囲気を感じたのである。
僧は笠に手を添えたまま勘助に一瞥をくれると、少し視線を落とした。笠の影で顔色が伺えなくなる。
「先程も訪れたのですが、留守だったようで。お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですかな」
「なんなが?生憎今は茶も出せやーせんが、ほきもよろしいか」
勘助は家にはいれられぬ旨を伝えた上で僧に作業小屋への移動を促す。
僧は一つ頷くと黙って勘助に従い移動した。
大声を出さねば小屋には声が届かぬ距離である。
「ほき、聞きたいこととは?」
「小生は、探しものをしておるのです」
「探し物?どがな物じゃ」
「それは…形が定まっておらぬのです」
「はぁ?」
勘助は思わず気の抜けた声をあげた。
「残念けんど、形の定まっておらんものなんぞ心当たりないどころかわしにゃどうすることもこたわんぞ」
「ええ、小生も困っているのです。何しろ見つける度に形が違います故」
「ほんならなきみつけられるんじゃ、形が違うんろう?」
少しの間があった。勘助は視界の僧にうっすらと違和感を覚えていた。
「数珠」
違和感が何なのか思考を巡らせはじめたとき僧が口を開き、思考もとめられた。
「数珠があるのです。必ず何処か一部に」
「ほがなもの誰でも持っちゅうにかぁーらん」
「ええ、ですから実際私が目にせねば判断つかぬのです。何か心当たりはありませんか」
その問いを受けた勘助の脳裏に少女が浮かんだ。正確には少女のただ一つの持ち物が。
「さあ、知らんの」
勘助は思考を悟られぬように、知らぬふりをした。少女の数珠のことを知られてはいけない気がしたのだ。
「先程、ここらで何かを拾われたと村の人に伺ったのですが」
今まで笠の影で隠れていた瞳が向けられた。
鋭い眼光が勘助を射貫く。
作業小屋にあずけていた背に悪寒が走る。
僧の雰囲気ががらりと代わり、目には見えぬ何かが首をつかんでいるように息苦しい。
「わしは、物は、拾うちゃおらん」
勘助は呼吸もならない状態からなんとか言葉を絞り出す。
左胸が早鐘を打っている。
危険だと警告している。
逃げ出してしまいたいほどの恐怖に駆られるが首元の圧迫感と同様に足は地面に縫いつけられているように動かない。
僧は何も言わず、勘助をその目で見据えているだけだ。
首の圧迫で呼吸ができず酸素が脳に回らなくなってきた。
「勘助さーん、着替え終わっちゅうよー」
女性の声が聞こえた。高くよく響くその声が勘助に届いた瞬間、息苦しさが消えた。荒い呼吸を繰り返して脳に酸素を巡らせる。
「失礼する」
僧は声のした方を一瞥し、笠で目許にまた影を作ると軽い会釈をして声とは逆方向へ去っていった。錫杖の音が遠のいていき、安堵した勘助の足から力が抜けて地面へとへたり込んだ。
それから間もなく、家の影から女性が顔を出した。
「ああ、おったおったぁ。どうしたがこがなげに?」
女性は地べたに座り込んでいる勘助に怪訝そうな顔をして問うた。
勘助はへらへらとなんでもないと笑った。
僧の去っていった方を見てみるが姿はもう見あたらない。
勘助は女性と共に小屋へと戻っていった。



まだまだつづく。
ここらへんから、土佐弁コンバータなる便利物を利用させていただいておりますが、自分は土佐もんではないので、初見で意味がわからなそうな言葉は変換しておりません。
しかも舞台は土佐とか実在している場所という設定ではございやせん。
中途半端で申し訳ない。

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2012/03/26 14:25 | Comments(0) | 書きなぐった

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