「先輩って手冷たいですよね」
何もすることがなくてベランダでぼんやりしていたところに声が掛かった。
声の主はよく知った後輩で、よくうちに遊びに来る。よく遊びに来るから会話がなくても気にならなくなった。たまにとりとめのない会話をするくらいだ。
「ん?あー、そうだねえ。なんか冷え性みたいでさ、毎年冬になるとずーっと冷たいんだよ」
「そのわりには、手袋とかしないですよね」
「手袋とかは苦手なんだ。というかね、芯まで冷たくなっちゃうからしてもあんまり意味がないんだよ」
「芯まで冷えちゃうと全然温まらないんですか?」
「お風呂とか、熱めのお湯につければ温まるかな。お風呂の後はすぐに寝ないとすぐに冷えちゃうけど」
いつもは言わないお風呂なんていう言い回しをつい使ってしまってむず痒く、意味もなく笑いがこぼれた。
「暖かいもの飲んだりしてもだめですか? ちょうどココアがありますよ」
勝手知ったる他人の我が家という風情。
後輩はインスタントのココアやコーヒーを置いてある棚を指差した。
「芯まで暖めるのは難しいかなあ。でも、触れている指先は温かいし、体は温まるからだめなんかじゃないよ」
「じゃあ、入れてきます。ちょっと待っててくださいね」
後輩は小走りにキッチンへ向かっていった。そんなに急いでいかなくてもいいのに。
なべにココアと砂糖を少しの水で練って、後は中火で牛乳を加えながらあたためる。というのがいつもの後輩の入れ方。
ネットで知ったおいしい入れ方らしい。確かにおいしいから忙しくないときは自分も同じ入れ方をしている。
「熱っ」
鼻歌交じりに牛乳を加えて混ぜていたところに小さな悲鳴が聞こえた。
ココアを作っているだけなのに何があったのかと心配になってキッチンに向かう。
キッチンでは後輩が手を押さえていた。
「どうしたの?」
「・・・ちょっと火傷しただけですから、大丈夫です」
「あちゃー。赤くなってるねえ」
見せてもらうと、赤くなって少しはれていた。すぐに冷やしたほうがいいと思った時、自分の手が冷たいことを思い出し、火傷に当ててみた。
「先輩の手、冷たいですね・・・水いりませんね」
後輩はそういって恥ずかしそうに笑った。
「冷たい手もたまには役に立つもんだねえ」
照れ隠しにそういってみたものの、顔から火が出そうなほど熱かった。
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