今、なんと。
勘助の頭は真っ白だった。
それもその筈、妖怪だなど勘助にとっておとぎ話の中のものでしかない。
それなのに、突然己が助けた少女がそれだなどと言われても信じられないだろう。
簡単に納得できる事実ではない。
「信じられぬだろうが、私はこの場で偽りを伝えてからかうような性質《たち》ではない。あなたもそれ位はわかるだろう」
呆然とする勘助にそう言って僧は立ち上がる
勘助の頭は真っ白だった。
それもその筈、妖怪だなど勘助にとっておとぎ話の中のものでしかない。
それなのに、突然己が助けた少女がそれだなどと言われても信じられないだろう。
簡単に納得できる事実ではない。
「信じられぬだろうが、私はこの場で偽りを伝えてからかうような性質《たち》ではない。あなたもそれ位はわかるだろう」
呆然とする勘助にそう言って僧は立ち上がる
少女が勘助のもとで暮らし始めて2週間ほどたとうとしていた。
その間、実に平穏だった。
男と住むのは良くないと村の女達が自分たちの所へ住むよう誘うこともあったが、それも断り少女は勘助の元に留まっている。
少女は勘助と比べ、家事などはできなかったが、手先は器用で針仕事が良く出来た。
無地の色布に誂《あつら》えた刺繍は、時折訪れる旅人の目にもとまり日銭へと変わるほどの物であった。
少女はこの2週間で順調に力を取り戻している。
体重も増え、畑仕事も手伝える程になった。
もう1週間ほどすれば奉公にでもどこでも行けるだろうと勘助は考えていた。
村で適当な仕事をもらうこともできるだろうとも。
気がかりなのは少女が外出を好まないことであった。
その間、実に平穏だった。
男と住むのは良くないと村の女達が自分たちの所へ住むよう誘うこともあったが、それも断り少女は勘助の元に留まっている。
少女は勘助と比べ、家事などはできなかったが、手先は器用で針仕事が良く出来た。
無地の色布に誂《あつら》えた刺繍は、時折訪れる旅人の目にもとまり日銭へと変わるほどの物であった。
少女はこの2週間で順調に力を取り戻している。
体重も増え、畑仕事も手伝える程になった。
もう1週間ほどすれば奉公にでもどこでも行けるだろうと勘助は考えていた。
村で適当な仕事をもらうこともできるだろうとも。
気がかりなのは少女が外出を好まないことであった。
帰り道、少女に名を訪ねてみたが、少女はわからないと答えた。
なぜかと聞けば、長い間呼ばれなかったので忘れてしまったという。自分の名前を忘れるなど奇妙だと思いもしたが、それが真かどうかなど確かめるすべもないので、勘助は呼び方を改める事はしなかった。少女はただ一つの持ち物である数珠を大事に握って背負われていた。
なぜかと聞けば、長い間呼ばれなかったので忘れてしまったという。自分の名前を忘れるなど奇妙だと思いもしたが、それが真かどうかなど確かめるすべもないので、勘助は呼び方を改める事はしなかった。少女はただ一つの持ち物である数珠を大事に握って背負われていた。